【批評】「アトミック・ブロンド」は”古き良きスパイの時代”と”現代アクション”のハイブリッド

【批評】「アトミック・ブロンド」は"古き良きスパイの時代"と"現代アクション"のハイブリッド


多くのスパイ映画は、緊張感をもってじっくりと見せるリアル路線か、「007」や「ミッション:インポッシブル」シリーズのようなド派手なアクション路線かの2種類に分かれます。

そんな中で、その2種類の「ハイブリッド」と呼べる異色の内容に仕上がっているのが、2017年公開のスパイアクション映画「アトミック・ブロンド」です。

静かな諜報戦がくり広げられた”古き良きスパイの時代”と、ド派手でスタイリッシュな”現代スパイアクション”の空気が両立された、新感覚のスパイ映画と言えます。

「冷戦時代」の世界観と21世紀のハリウッドアクションの融合

混沌とした灰色の世界観の魅力

「冷戦時代のベルリン」は、独特の空気を帯びた世界です。

ひとつの街のなかに様々な国家・勢力の意思が渦巻き、それぞれの動きがスパイたちによる「諜報戦」というかたちでぶつかり合っていた時代でしょう。

作中でも、ロシアなどの「東側」、アメリカやイギリスなどの「西側」のスパイが入り混じり、さらにそこへフランスなども介入。まさに「混沌とした」状態にありました。

そんなベルリン内部は平和とは程遠い危険な世界だったはずですが、そこには一触即発だからこその異様な熱気が満ちていました。

その熱気が、この「アトミック・ブロンド」では観客の興奮を呼ぶ要素として活きています。

誰もが本性を隠して暗躍し、さまざまな国の影が入り混じるベルリンの光景は、1980年代の古風な空気を帯びながらもどこかディストピア的でサイバーパンク的な色合いすら感じさせてます。

この現実離れした灰色の世界観が、作品の大きな魅力のひとつです。

気鋭の実力派デヴィッド・リーチが見せる絶妙なバランスのアクション

画面を彩る灰色の世界観と併せて大きな見どころになっているのが、「アクション」です。

「アトミック・ブロンド」の監督はデヴィッド・リーチ。「ジョン・ウィック」の共同監督を務め、本作の監督後には「デッドプール2」や「ワイルド・スピード/スーパーコンボ」を手がけることになる気鋭の実力派監督です。

そんなデヴィッド・リーチによって演出されるアクションは、派手で現代的なスタイリッシュさを帯びながらも、冷戦下のベルリンのリアリティを損なわない泥臭さも併せ持っています。

この絶妙なバランス感覚も、「アトミック・ブロンド」を独特のスパイアクション映画に仕上げている要素のひとつでしょう。

映画的な「アクション」としての鮮やかさを持ちながらも、「人間が生身で殴り合っている」ことをしっかり感じさせてくれます。

世界観を築くキャストの名演

シャーリーズ・セロンの圧倒的な存在感

確固たる世界観とアクションの魅力を最大限に引き出しているのが、キャストたちの名演です。

なかでも主演のシャーリーズ・セロンは、圧倒的な存在感を見せています

近年では「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のフュリオサ役で知られ、他の作品でもただ美しいだけじゃないハードなキャラクターを見せてきたシャーリーズ・セロン。

「アトミック・ブロンド」でも、女スパイとしてのしなやか美しさや圧倒的なタフさはもちろん、自身の仕事や生き方に葛藤する危うさも見せて、人間らしさを感じさせてくれます。

シャーリーズ・セロンが演じるあらゆる面で魅力的な主人公ロレーンがいるからこそ、ストーリーや世界観が活きていると言えるでしょう。

実力派俳優たちのキャスティングが光る

シャーリーズ・セロンの脇を固めキャストにも、注目の実力派が並んでいます。

まず、ロレーンと並ぶ準主役パーシヴァルを演じたジェームズ・マカヴォイ

常軌を逸したキャラクターの演技に定評があり、「スプリット」で多重人格の誘拐犯を演じて話題を集めたマカヴォイは、本作でも一癖あるギャングまがいの諜報員を演じています。

その怪演っぷりは、シャーリーズ・セロンに迫る存在感があると言えるでしょう。

他にも、「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」でピエロのペニーワイズを演じて話題になったビル・スカルスガルドが、ここぞという場面でロレーンをサポートする現地工作員を演じています。

ペニーワイズの表情とは打って変わって、繊細な美青年っぷりを発揮している点に注目です。

それ以外でも、裏のあるCIAエージェント役で名優ジョン・グッドマン、フランスの諜報員でヒロインとなる役でソフィア・ブテラ、重要な役割を果たす工作員役でドイツ人俳優のティル・シュヴァイガーといった個性的なキャストが並んでいて、それぞれの思考が絡み合う群像劇としても楽しめます。

最後に

ストーリーや世界観は古き良き硬派なスパイ映画風に、一方でアクションや演出は現代的でスタイリッシュに。

スタイルの違う2つの「王道」を組み合わせることで新感覚のスパイアクション映画に仕上がった「アトミック・ブロンド」は、昔ながらのスパイ映画ファンも、エンタメ的なスパイ映画のファンも楽しめる傑作です。

リアル志向のスパイ映画の、新しい進化のかたちと呼べる作品ではないでしょうか。