【批評】「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」がとった”正しい”アピール戦略

【批評】「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」がとった"正しい"アピール戦略


2018年公開の中国産アクション映画「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」は、激しいアクションが話題を呼んで「中国版ランボー」と評されるなど、世界的に大きな注目を集めました。

この作品から受け取れる、中国映画界の”正しい”アピール戦略を批評していきます。

ド派手なアクションが話題を呼んだ「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」

元特殊部隊の主人公が紛争の中で孤軍奮闘

「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」の主人公は、中国の特殊部隊「戦狼」の隊員だったレイ・フェンという男です。

彼が恋人の死をきっかけに中国を去ってアフリカで暮らすようになり、そこで紛争に巻き込まれていくストーリーが描かれます。

武装勢力と現地の軍の攻防、その中で自分や周囲の人物を守るために戦うレイの戦いが最大の見どころで、その内容はまさにランボーのような「戦争アクション映画」としてハリウッド並みの大作に仕上がっています

主人公の人間味や元軍人としての苦悩を感じさせつつも、エンタメ映画としてのスカッとする爽快感にも溢れた作品です。

アジア/アメリカの注目アクション俳優が真正面から激突

中国映画でありながらアフリカを舞台にワールドワイドな世界観が作られた「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」は、アクションに特化した国際的なキャストも見どころです。

まず、主人公レイ・フェンを演じたウー・ジンは「ジャッキー・チェンを継ぐ男」と称されるほど香港映画界で話題を集めてきました。

怒涛のアクションはもちろん、爽やかで落ち着いたキャラクターも魅力の俳優です。

ちなみに、本作では自ら監督も務めています。

そして、主人公と対立する傭兵部隊のリーダー、ビッグ・ダディを演じたのは、ハリウッドで近年注目を集めるフランク・グリロです。

「パージ」シリーズや「スカイライン -奪還-」などの話題作で立て続けに主演を務め、実力派として注目されています。

他にも、ウクライナ出身の格闘家で「ワイルド・スピード ICE BREAK」に出演したオレッグ・プルディウスなど実力派アクション俳優・スタント俳優が出演していて、圧倒的なアクションが楽しめます。

「中国」のアピールを嫌味なく達成

「爽やかでマッチョな主人公」がヒーロー感を演出

「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」はあくまでエンタメ系アクション映画としての色合いが強く、主人公のレイ・フェンも「爽やかでマッチョな主人公」として観る人に好印象を与えてきます。

彼の明快で裏のないキャラクターは、お手本のような「アクション映画の正義のヒーロー」です。

中国の大作映画ではよく「中国はいい国」「中国は強くて影響力のある国」とイメージづけるアピールが含まれますが、本作はあくまで「純粋に楽しめるアクション映画」の枠内で善人の主人公を見せることで、そのアピールが露骨になりすぎることなく「中国人ヒーロー」を演出しています。

大国的な描写で「国際社会における存在感」を表現

作中のさまざまな描写でも、中国が「国際社会に影響力のある大国」であることをアピールしているのが読み取れます。

アフリカで中国人の博士が重要な研究をしていたり、中国大使館が避難民の逃げ場として機能したりと、そのふるまいはこれまでのハリウッド映画における「アメリカ」そのものです。

科学的に中国が先進的であることを見せて、中国が人道的な国であることも示す…と、いくつものイメージアップ戦略がうかがえますね。

「中国は素晴らしい」と露骨に高揚感をあおるのではなく、これまでのハリウッド映画でのアメリカ描写に習うようなかたちで演出としてアピールを盛り込んでいるのが印象的です。

最後に

近年めざましい発展を遂げている中国映画界ですが、その中でも海外向けを意識した大作では「あくまでエンタメ映画としてのクオリティを追求しつつ、さりげなく中国の存在感や重要度を示す」という手法がとられるようになっています。

中国でも歴史的なヒットを記録した「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」は、その典型例と呼べる作品でしょう。

“正しい”アピールで、あくまで露骨にならないよう国際的な印象を高めていく……という中国大作映画の背景に注目してみると、また新しい発見があるのではないでしょうか。