【批評】「嘘を愛する女」は嘘から始まった本当の大人の愛の話


2018年1月に公開された「嘘を愛する女」。長澤まさみと高橋一生という、今を代表する人気俳優主演の映画として話題を集めました。

くも膜下出血で倒れた彼氏が、実は名前も素性もわからない人物だったという衝撃的な展開から始まるこの映画。

ここでは、この映画の見所を批評とともにご紹介いたします。

 

実際の話を元にして作られた脚本

「嘘を愛する女」は、長澤まさみ演じる30代の女性、由加利が主人公の物語です。

仕事でも成果を上げて注目され、彼氏もいる充実した生活を過ごしている、いわゆるバリキャリの女性として描かれています。

誰もが羨むような生活をしている彼女でしたが、それは同棲している彼氏、桔平が突然倒れたことで一変します。

実は桔平は、名前も素性もわからない人物だったことが明らかになるのです。

持っていた免許証は偽造されたもので、彼女に伝えていた名前は嘘。

 

まるで信じられない話ですが、実はこれは実際にあったお話。

監督の中村和仁が、この話を聞いた十年以上も昔からずっと書きたかったと考えていた物語なのだそうです。

それを知ってから、長澤まさみ演じる由加利の心情の動きに注目して観ると、胸が切なくなるような内容となっています。

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人を愛することの難しさを感じる物語

5年間も同棲していた恋人、桔平が実は素性のわからない人物だったということを知らされる由加利。

真実を問い正そうにも桔平は昏睡状態になってしまい、目がさめるかどうかも怪しい状況。

 

そこで由加利は私立探偵の海原を雇って、桔平のことを探ろうとします。

彼の身辺を探っていると出てきたのは、彼がノートパソコンで執筆していた夫婦と子供の物語でした。

その物語の内容から、おそらく主人公の男性は桔平自身だろうと当たりをつけて、小説によく出てくる瀬戸内を目指す由加利。

 

こうした由加利の行動を見てみると、恋人への愛情に溢れた女性というイメージを抱きますが、実際の由加利はもう少し打算的

彼女は、恋人の桔平がなかなか結婚に踏み切ってくれないことを理由に、合コンに行って他の相手を探すような女性なのです。

桔平の秘密を知ってからも苛立って見舞いにも行かないなど、作中の彼女は決して魅力的には描かれていません。

他人から高い評価をもらえることに喜びを覚え、より良い仕事やパートナーを得るために計算的に動く女性であり、性格も怒りっぽくワガママで自己中心的な考えの強い人物です。

 

実際に、彼女が桔平の秘密を探るために動くのも、単純に恋人への想いだけではありませんでした。

そんな彼女が、瀬戸内の島をめぐっている中で変わっていくのがこの映画の見所の一つです。

 

実際、交際している相手が素性を隠していたとしたら、裏切られたと感じ、恋人への想いも純粋に抱いていられないのが人情というもの。

桔平に至っては、彼の過去には事件性があることもわかってきます。

もし由加利の立場であれば、彼との関係をなかったことにするのが妥当な選択肢として浮かぶでしょう。由加利の打算的な性格であれば、その選択肢を選んでもおかしくありません。

しかし、彼女はそれを選ばず、私立探偵の海原が止めるのも聞かずに、捜索を続けるのです。

そんな中で、彼女が徐々に桔平への想いを確認していき、体裁や保身を投げ捨てていくのは涙を禁じ得ません。

 

素性を明かすことなく、金銭的に由加利に依存していた桔平。その二人の関係性を登場人物の多くは、利用した男とされた女という風に見ていました。

由加利本人も、彼に騙されたという想いを抱えていましたが、物語の終盤で彼との関係性を問われた時に「妻です」と迷いなく答えたシーンは最大の見所と言えます。

騙されていてもいい、と覚悟を決めて彼を思い続けようとした由加利の態度は、誰もがとれるものではないだけあって、人を愛することの難しさを感じます。

 

最後に

由加利の覚悟に答えるように、物語のラストでは桔平の彼女への想いが明らかとなる展開で締めくくられます。

最後に明かされる桔平の愛情は感動的。人を愛することの難しさとともに、その素晴らしさを感じることができるラストとなっています。

 

また、二人の愛情の物語に箔を付ける長澤まさみと高橋一生の演技も素晴らしいものです。

特に、長澤まさみの演技力はさすがと言わしめるほど抜群のもの。

謎を解くようなストーリー展開と二人の愛情の魅せる物語を、この二人で演出できたのはこの映画の幸運と言ってもいいほどでしょう。

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