【批評】「怪物はささやく」は怪物とコナーの難解なダークファンタジー

怪獣はささやく


2017年に公開されたダークファンタジー映画『怪物はささやく』。

英文学の最高傑作のひとつと言われる、パトリック・ネスの小説『怪物はささやく』を実写化した作品です。

日本ではあまり有名な映画ではありませんが、CGとイラスト、そして俳優陣の演技が美しくコラボした隠れた名作です。

ここではこの映画の魅力についてご紹介したいと思います。

 

『怪物はささやく』のあらすじ

この映画はダークファンタジーのジャンルと言えますが、同時に、家族愛を描いた非常に心温まるヒューマンドラマでもあります。

主人公は、病気の母親と二人で暮らす少年コナー。

絵を描くことが好きなコナーは、毎夜のように母親が崖の底に落ちてしまう夢によってうなされていました。

そんなコナーに、とある夜、怪物がやってくるところから物語は始まります。

怪物は、「今から三夜にわたって3つの真実の話をする。その話が終わって4回目の夜、今度はお前が4つ目の真実の話をしろ」とコナーに迫るのです。

怪物の語る3つの真実の話とリンクするようなコナーの現実。

病に伏し、死の淵をさまよう母親や、離婚してアメリカに住む父親、母方の祖母との関係性。

そして、学校でのいじめ。取り巻く厳しい環境の中で翻弄され、打ちのめされるコナーが、最後に怪物に語る「真実」。

それを語ることで、現実と向き合ったコナーに待つラストは、涙が止まらない展開となっています。

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CGとイラストが織りなす映像美

『怪物はささやく』の最大の魅力は、CGとイラストなどが織り込まれた独特の映像美にあります。

コナーの家の近くの教会にある古木が、形をかえて怪物になったり、地面が割れて崖になったりと、物語のいたるところに織り込まれるCG。

日常風景に突如として現れる、そこには存在しない怪物や崖などは、コナーが物語の中で夢と現実を行き来している様を暗に示しています。

冒頭では単なる夢の住人であった怪物が、どんどん現実に侵入してくる描き方は、映画のなかに観客を引き込む臨場感あるものとなっています。

 

また、随所にイラストが散りばめられているのも『怪物はささやく』の独特の魅力です。

怪物が語る物語は、実写の映像に水彩画を思わせるイラストで彩られており、絵本を見ているような不思議な感覚に陥ります。

このイラストは、物語のラストで大きな意味を持つ伏線ともなっているので、絵をしっかり覚えながら見るのもオススメです。

 

CGとイラストが織りなすこの映像は、鑑賞後にしっかりとまぶたの裏に焼きつくほど美しいものです。

この映像美があるからこそ、ダークファンタジーでありながら、ほとんど恐ろしさがないのだと思います。

 

怪物の語る真実とコナーの真実の深い意味

この映画のもう1つの魅力は、「真実」についての深い意味だと思います。

この意味こそが、原作者でもあり1映画の脚本も担当したパトリック・ネスの伝えたかったことでもあります。

 

怪物が語る物語では、「正義」も「悪」もありません。

見る方向を変えれば、「正義」は「悪」になり、「悪」も「正しく」見えるという「真実」が語られるのです。

そんな怪物の話を聞きながら、コナーは現実の生活のなかで暴力を振るったりとどんどん「悪い」方向へと走っていきます。

コナー自身は誰かが罰っしてくれるのを待つのですが、彼が置かれた状況から誰も彼を咎めようとしません。

 

そんな状況の中で、コナーが見つけた自分の「真実」の物語。

4つ目の物語として語られるそれに、果たして「悪」とは何なのか、と考えさせられるのです。

 

最後に

ダークファンタジーでありながら、家族の問題についても描いた『怪物はささやく』。

題材も重く全体として暗い印象の強い作品ではありますが、ラストは祖母や母親との関係も進展し、ハッピーエンドで締めくくられます。

また、コナーにしか見えなかった怪物の正体とその目的もラストで明らかとなります。

この怪物の「真実」こそがこの映画の最大のポイントとなっており、この「真実」を知ってから最初から見直すと、また違った見方ができます。

この映画を2回見るのも、楽しみ方のひとつだと思います。

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