SFホラー映画の名作「エイリアン」シリーズ。
エイリアンの強烈なビジュアルや宇宙でくり広げられる戦慄のサバイバルで知られるこのシリーズは、他のSF映画やホラー映画にも大きな影響を与えてきました。
そんな「エイリアン」シリーズは、本来のSFホラーとしての見方だけでなく、シガニー・ウィーバー演じる主人公リプリーに焦点をあてた別の見方もできます。
今回は「エイリアン」シリーズを、リプリーとエイリアンの奇妙な関係から見返していきます。
エイリアン:純粋な敵
まず、第1作目の「エイリアン」では、エイリアンは人間の純粋な敵として登場しました。
宇宙船内という閉鎖空間にまぎれこんだエイリアンと人間の死闘は、主人公リプリーただ一人が生き残るという結果に終わりましたね。
この作品では、まだエイリアンは「未知の地球外生命体」という、ただの化け物として描写されています。
そして、リプリー自身も、ごく普通の一人の女性として描かれます。
エイリアン2:「母親」としての生存競争相手
続編となった「エイリアン2」では群れで動いて巣を作るなど、エイリアンの「種族」としての一面が描写されました。
さらに、エイリアンたちを産み従える女王「クイーン・エイリアン」も登場。
一方で、人間側にはエイリアンに襲われて生き残った少女ニュート(キャリー・ヘン)が登場し、リプリーとニュートの間には、疑似的な親子関係のような絆が芽生えていきます。
クイーン・エイリアンは純粋な脅威としてだけではなく、リプリーにとっては「我が子を守るために戦う相手」として描かれます。
ニュートを守りたいリプリーと、「子どもたち」のために群れのボスとして襲いかかってくるクイーン・エイリアン。
「エイリアン2」は、2つの種族の母親がぶつかりあう、生存競争の物語でもあるといえます。
エイリアン3:敵であり「お腹に宿した存在」
エイリアンには「人間の体内に幼体を寄生させ、成長した幼体は人体を突き破って生まれてくる」という生態があります。
そして、「エイリアン3」では、ついにリプリーもエイリアンに寄生されてしまいます。
物語の最後、お腹の中のエイリアンごとリプリーが自ら身を投げる場面は、印象的な名シーンとして知られていますね。
このシーンでは、リプリーがまるで赤ん坊のようにエイリアンの幼体を抱きながら落ちていき、彼女の母性のような感情を感じさせます。
敵でありながら自分のお腹の中で育った存在に、リプリーはどんな思いを抱いたのでしょうか。
エイリアン4:「兄弟」や「我が子」との戦い
「エイリアン4」で登場するリプリーは、リプリーの残されたDNAから複製されたクローンです。
そして、エイリアンもまたクローンとして再現され、クローンリプリーは「人間の遺伝子にエイリアンの遺伝子が混ざった存在」となっています。
そのため、本作ではリプリーとエイリアンたちは、遺伝上の「兄弟」同士です。
さらに、終盤で登場する新種のエイリアン「ニューボーン」は、クローンリプリーから摘出されたクイーンによって産まれた存在、つまりリプリーにとっては「我が子(正確には孫)」ということになります。
リプリーはあくまでも人間の側に立ちますが、エイリアンとコミュニケーションをとるような姿を見せたり、自分を母として慕ってくるニューボーンに「許して」と語りかけながらとどめを刺すなど、血のつながったエイリアンたちに単なる「化け物」以上の感情を抱いていたようです。
感情の起伏が薄そうに見えるクローンリプリーですが、兄弟や我が子であるエイリアンたちと殺し合わなければならない運命に、葛藤やためらいもあったのではないでしょうか。
最後に:「母親」の物語としてのエイリアン
「エイリアン」シリーズはSFホラーであると同時に、リプリーという一人の「母親」の物語でもあるといえます。
かよわい一人の女性だったリプリーは、ニュートを守る母として強くなり、エイリアンと奇妙な関係で結ばれ、最後には本当の意味でエイリアンたちと「家族」になっていきました。
そんなリプリーの視点からシリーズを見直してみると、リプリーに対して、そしてエイリアンに対しても、これまでとは違った感情が芽生えるのではないでしょうか。
「母親」の物語としての「エイリアン」シリーズに着目すると、きっと新たな発見がありますよ。