【批評】映画「オデッセイ」は”世界一安心して観られるSFアドベンチャー”

オデッセイ


マット・デイモン主演のSF映画「オデッセイ」は、小説「火星の人」を原作にしたサバイバルアドベンチャーです。

主人公は火星探査計画「アレス3」に参加した宇宙飛行士のマーク・ワトニー。

火星基地に予想外の砂嵐が来たためアレス3が中止になるも、撤退中にワトニーだけが不慮の事故で行方不明になってしまい、死亡したと断定されて他のクルーたちは撤退。

ところが、奇跡的に事故を生き延びていたワトニーは、たった一人で火星に取り残されてしまい、基地に残された物資を使って孤独なサバイバルをくり広げることになります。

一方で、火星の衛星写真からワトニーが生きていることを知ったNASAのクルーたちは、彼をなんとかして救出するために奮闘していきます。

 

「火星で一人ぼっち」という、ちょっと変わった状況を描いたこの作品は、「世界一安心して見られるSFアドベンチャー」と呼べる作品ではないでしょうか。

SF映画にはサスペンス色やホラー色の強い、シリアスな作品が多い中、この「オデッセイ」は、とにかく安心感をもって観られる一作です。

なぜ、この作品はこんなにも穏やかに観ていられるのか。その理由をひも解いていきます。

主人公がポジティブ

まず、この「オデッセイ」を安心して観ることができる大きな理由として「主人公マーク・ワトニーがめちゃめちゃポジティブ」という点が挙げられます。

普通に考えて、「たった一人で火星に取り残されて、救助が来るかどうかも分からない」といった状況に陥ったら、落ち着いていられる人は少ないでしょう。

 

ところが、このワトニーには「とりあえず今やれることをやっていこう」という、ずば抜けて前向きな精神があります。

厳しい状況で絶望に暮れることもなく、できるだけ長く生き延びる気マンマンでじゃがいも栽培を始めたり、アイデアと行動力で地球との通信を回復させてしまったりします。

ここまでポジティブな行動を見せられると、観客側も「まあ、なんとかなるだろう」と思わずにはいられません。

火星での厳しいサバイバルをくり広げているはずが、ワトニーの行動は「自分だけの王国を開拓している」ようで、なんだか楽しそうにすら思えてしまいます。

危険な状況が描かれていることには変わりないはずですが、ワトニーの明るくてあっけらかんとしたキャラクターのおかげで、「こいつは間違いなく生きて帰れる」と思える安心感が漂っています。

 

登場人物が全員”いい人”

ワトニーのポジティブさに加えて、地球のNASAの人々や火星を脱出した他の「アレス3」クルーたちのキャラクターも、「オデッセイ」の安心感に拍車をかけています。

この作品、とにかく登場人物が全員「いい人」です。

地上のNASAと宇宙船の「アレス3」クルーたち、さらにはNASAに協力することになる中国の宇宙開発部門の人々まで、全ての人が「ワトニーを生還させる」というひとつの目標に向かってまっすぐ突き進んでいきます。

ワトニー救出の方法で議論がぶつかったりはするものの、誰か敵がいて戦うことになったり、邪魔が入ったりといったサスペンス要素がありません。

なので、究極に「人間関係のストレスがフリー」な作品といえるのではないでしょうか。

 

そして、ワトニー救出のために奮闘する登場人物たちを観ているうちに、観客はこの救出劇にどんどん引き込まれていきます。

皆でひとつの計画の成功に向かって頑張る」という清々さを疑似体験させてくれるこの映画は、同じ目標を抱えた、信頼できる仲間に囲まれているような安心を感じさせてくれます。

 

最後に

サバイバルをくり広げるワトニーと、彼を救出しようと奮闘するNASA職員たち。

2つの視点のストーリーが描かれる「オデッセイ」ですが、どちらの物語についても、観客は圧倒的な「安心感」をもって観ることができます。

明るくコミカルな雰囲気の中、約束されたハッピーエンドに向かって突き進んでいくストーリー展開は、SF映画の息が詰まるようなハラハラドキドキが苦手な方も楽しめるのではないでしょうか。

そんな「世界一安心して観られるSFアドベンチャー」こと「オデッセイ」。

SF映画が苦手な方、SF映画に興味がない方にこそ手に取ってほしい一作です。