2016年に、西部劇映画としては久々のハリウッド大作として製作された「マグニフィセント・セブン」。
「ザ・シューター/極大射程」や「エンド・オブ・ホワイトハウス」、「イコライザー」などの良作アクション映画を世の中に送り出してきたアントワーン・フークア監督がメガホンをとったこの作品は、古き良き西部劇を、現代的なアクション映画へと生まれ変わらせています。
そんな「マグニフィセント・セブン」ですが、その設定やキャスティングには、2010年代ならではの様々な要素が反映されています。
西部劇映画の新しいかたちを示したこの作品の内面を、詳しく見ていきましょう。
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映画「マグニフィセント・セブン」はワイルドすぎる!「荒野の7人」のリメイク作品
よりシリアスになったストーリー
7人のガンマンが正義のために活躍する「マグニフィセント・セブン」は、そのタイトルにも表れているように、名作西部劇「荒野の七人」のリメイク作です。
「ある町に雇われた7人のガンマンたちが、町を襲う悪役と戦う」という大筋のストーリーは同じになっているものの、敵役が盗賊集団から悪徳実業家へと変わっています。
逆らうものは女性であろうと容赦なく撃ったり、町の教会を見せしめに焼き払ったりと、その行いはまさに極悪非道です。
原作では「正義のガンマンたちが悪の盗賊と戦う」というポップでエンタメ的な構図が展開されていましたが、今回登場する残忍な実業家ボーグ(ピーター・サースガード)とその部下たちは、現実的な悪人としてより生々しい憎しみを覚えるキャラクターです。
だからこそ、映画全体の雰囲気も、より現実的でシリアスなものに仕上がっています。
ちなみに、原作の「荒野の七人」自体が黒澤明監督の名作「七人の侍」のリメイクなので、この「マグニフィセント・セブン」には、ある意味で日本映画の血が流れていると言えますね。
キャスト面に大きく表れた映画界の変化
・原作のキャスティングとの人種的な違い
先に解説した悪役の背景のように、「マグニフィセント・セブン」と「荒野の七人」にはいくつか設定の変更がありますが、その中でも特に大きいのが「メインキャラクターの設定」です。
原作では、メインキャラクターとなる「七人」は全員が白人ガンマンという設定でした。
西部開拓時代の背景的には「ガンマン=白人男性」というのは自然な設定で、当時のハリウッドのキャスティング事情を考えても「映画の主役=白人俳優」というのが常識だったことを考えると、当たり前といえば当たり前です。
その一方で、「マグニフィセント・セブン」では、主役の7人に様々なキャラクター設定がなされています。
まず、主人公は黒人ガンマンのサム・チザム(デンゼル・ワシントン)で、「西部劇の主人公が黒人」という、「荒野の七人」の時代では考えられなかったキャスティングになっています。
ですが、原作の主人公クリスへのオマージュが感じられる全身黒ずくめの服装は、落ち着いていて知的な雰囲気のデンゼル・ワシントンとぴったり合って、化学反応と言ってもいいようなかっこよさに仕上がっています。
西部開拓時代は南北戦争後なので、差別や偏見を実力で跳ねのけたチザムのような人物も少数ながらいたことを考えると、黒人ガンマンが活躍することに何の不思議もありません。
また、他にも流れ者の東洋系ガンマン、ビリー(イ・ビョンホン)も登場します。
実際にこの時代には「苦力(クーリー)」と呼ばれる東洋系移民がいたことから、その中からガンマンになる人物が現れても不思議ではありませんね。
さらに、賞金首ながら町の防衛に参加するバスケス(マヌエル・ガルシア=ルルフォ)はメキシコ人で、加えてネイティブ・アメリカンの青年レッド・ハーベスト(マーティン・センズメアー)も「七人」の1人として戦いに参加します。
このように、メインキャラクターに様々な人種が含まれている背景には、「人種の平等性に考慮して主要キャストの人種をばらけさせる」という最近のハリウッド事情もあるのでしょう。
ですが、それぞれのキャラに無理のない設定が与えられていることで、最近の映画に慣れている私たちにとっては、むしろ原作よりバリエーション豊かでより個性的・魅力的に見えます。
・ガンマン以外の人物の活躍も
活躍するキャラクターが「ガンマン」ばかりではないのも、「マグニフィセント・セブン」の特徴です。
例えば、先ほど紹介したレッド・ハーベストは、放浪の旅に出ていた先住民の青年ということで、拳銃ではなく弓矢を使って戦います。
さらに、7人のうちの1人になるジャック・ホーン(ヴィンセント・ドノフリオ)は、いわゆる「マウンテン・マン」と呼ばれる罠猟師です。
そして主役の7人だけでなく、彼らに声をかけて雇い入れた女性エマ(ヘイリー・ベネット)も自ら銃を取って勇ましく戦います。
西部劇映画では目立って活躍することの少ない女性が最前線で活躍しているのは、このジャンルとしては挑戦的な描写になったのではないでしょうか。
ガンマン以外の人物も積極的に戦うからこそ、より「立場を超えて、皆で協力して悪に立ち向かう」という展開の盛り上がりが大きくなっているように思えます。
よりスタイリッシュで派手に描かれる圧巻の戦闘シーン
アクションシーンにも、これまでの西部劇映画とは違った演出が多くあります。
原作「荒野の七人」では拳銃やライフルの撃ち合いを中心としたシンプルなアクションが描かれましたが、「マグニフィセント・セブン」では、爆弾を使ったド派手なトラップや当時最先端の新兵器だったガトリング砲の登場、ナイフによる近接戦など、より現代的でスタイリッシュなアクションが展開されます。
一方で、撃ち姿までビシッと決めるような古き良き西部劇アクションの魅せ方もしっかりと取り入れられていて、画面全体に緊張感を生みだします。
現代と当時のアクション要素が混ざることで、昔からの西部劇ファンはもちろん、「西部劇=古い映画」というイメージで興味がなかった人でも楽しめるようなアクション大作に仕上がっているのではないでしょうか。
最後に
現代的で斬新な設定・描写をふんだんに取り入れつつも、しっかりと王道の西部劇アクションに仕上げている「マグニフィセント・セブン」。
伝統的な要素と新しい要素を絶妙なバランスでミックスさせて成り立たせているこの作品は、まさに「新時代の西部劇映画」と言えるのではないでしょうか。
今まで西部劇映画を観たことがない人にこそ観てほしい、スタイリッシュエンタメアクションの傑作です。