【批評】「アウトロー・キング ~スコットランドの英雄~」は中世ヨーロッパの”泥臭さ”をリアルに描いた歴史アクション

アウトロー・キング ~スコットランドの英雄~


ゲームやアニメの世界では、レトロな風景の中に「騎士・剣・城」などがあり、どこかファンタジックな要素が並ぶ夢の舞台のひとつとして描かれる「中世ヨーロッパ」。

ところがその実態は、未熟な文明と劣悪な生活環境の中で暴力や戦争といった理不尽な恐怖がはびこる厳しい世界でした。

イングランド王エドワード1世による圧政に立ち向かい、スコットランドを独立に導いたロバート・ザ・ブルース(後のロバート1世)を描く「アウトロー・キング ~スコットランドの英雄~」では、そんな中世ヨーロッパの泥臭い雰囲気が見事に表現されています。

当時の空気を肌で感じられるリアルな描写の数々が、最大の見どころです。

 

「アウトロー・キング ~スコットランドの英雄~」は生々しく泥臭い世界観

薄暗く、どこかみすぼらしい風景

「領地と城を持つ諸侯の支持のもと、王が国全体を治める」という中世イギリスの世界観。こうやって聞くと、荘厳で華々しいイメージが湧きます。

ところが、中世当時は文明や技術がまだまだ未発達で、決して豊かな時代とは言えなかったそうです。

「アウトロー・キング ~スコットランドの英雄~」では、そんな中世ヨーロッパの実情が生々しいほどリアルに表現されています。

 

まず、諸侯や王といった権力者たちの姿は決して美麗で優雅なものではありません。

中世の風景の目玉である「城」も、小さくて薄暗くて、その実態は「砦」とでも呼ぶ方がしっくりと来ます。

また、騎士による軍隊も整然とした機能美は感じられず、不揃いの鎧に身をまとってワラワラと集まる様は、今の感覚と比べると、みすぼらしさすら感じさせます。

灰色がかった城や町の光景は、「中世ヨーロッパ」という時代にファンタジックな憧れを抱いていた人が見ると、あ然としてしまうほど寒々しいものではないでしょうか。

埃っぽく冷たい空気の質感まで漂ってくるような情景描写は、単に当時の雰囲気を観客に理解させるだけでなく、その生活感までをもダイレクトに伝えてきます。

 

あの名作映画”ブレイブハート”とのつながりも

中世スコットランドの民族独立を描いた映画としては、アカデミー賞も受賞した名作「ブレイブハート」があります。

「ブレイブハート」も当時のイギリスのじめじめとした雰囲気を見事に描いた作品として知られていますが、これと「アウトロー・キング ~スコットランドの英雄~」は、時系列的に重なりを持つ作品同士です。

「ブレイブハート」の主人公で、スコットランド独立の英雄ウィリアム・ウォレスは、イングランド軍に捕らえられて「4つ裂き」にされるという壮絶な最期を遂げました。

その遺体が民衆に見せしめとして晒されたことから、スコットランドの独立感情はさらなる盛り上がりを見せます。

 

実際に、「アウトロー・キング ~スコットランドの英雄~」でも、主人公ロバートが民衆と一緒にウォレスの遺体を目撃する場面があります。

この作品はある意味で、「ブレイブハート」の続編に位置づけられると言えるでしょう。

 

力が支配する世界だからこその残虐描写

中世スコットランドを描く歴史映画であると同時に、独立戦争を描いた「戦争映画」でもある「アウトロー・キング ~スコットランドの英雄~」。

当然たくさんの戦闘シーンがありますが、その残虐さは尋常じゃありません。

内臓がこぼれ、火矢が体を焼き、丸太のような杭が人間も馬も串刺しにしていく描写の数々は、思わず目を覆いたくなる凄惨さです。

力づくで相手の命を奪い取りにかかるような壮絶な戦いは、力が支配する当時の世界ならではのグロテスクな様相を見せます。

こういった残虐描写にも、同じく暴力描写の過激さで知られる先述の「ブレイブハート」との血のつながりが感じられます。

 

史実の再現度が高いストーリーと戦闘

現代と比べると”小規模”な戦争

城や街並みの風景、泥臭い空気感など、中世イギリスのリアルな雰囲気が最大の魅力となっているこの作品ですが、その再現度は史実に忠実なストーリーや戦闘描写にも及んでいます。

 

注目したいのが、作中で描かれる戦闘の「規模」です。

ほとんどの戦いが数十人~100人程度の規模、スコットランド軍とイングランド軍の最終決戦でもその人数は「500人vs3000人」と、国を2分する戦争としては、非常に小規模なものに感じられるのではないでしょうか。

今と比べると人口も圧倒的に少ない中世では、一大決戦でも思いのほか戦いのスケールは小さかったことが分かります。

日本の戦国時代でもせいぜい数千人規模の戦いがほとんどだったことを考えると、「アウトロー・キング ~スコットランドの英雄~」の戦争描写は、当時の実情に沿っていると言えるでしょう。

「戦争」というと何万人がぶつかり合うような光景が想像されますが、それは人口も軍の規模も大きくなった現代ならではのもののようですね。

 

史実に沿っているからこその説明不足感も?

基本的には史実に沿っている「アウトロー・キング ~スコットランドの英雄~」ですが、史実に沿っているこそ説明不足感のある部分もあります。

特に、主人公ロバートがスコットランド内での政敵ジョン・ベイリャルをあっけなく罠にかけて殺害し、独立戦争を始めるくだりは、多くの人が唐突に感じたのではないでしょうか。

民族がひとつにまとまらなかった背景に諸侯の対立問題があったことなど、歴史的には色々な裏事情があった当時のスコットランド情勢。

そのあたりを知らない日本人からすると、ロバートがいきなり野心を発揮してライバルを刺したようにも見えます。

このあたりは、当時の歴史についてある程度知っているヨーロッパやアメリカをメインの客層ととらえて、あえて説明を省いているような印象です。

 

また、その後のストーリー展開やロバートたちの行動も背景の説明がないため、私たち日本人からすると把握しづらい部分もあります。

歴史映画として史実の再現度が高い分、どうしても淡々とした展開になりがちなのは、バランス的に難しいポイントですね。

 

最後に

事前にロバート1世について軽く調べたり、「ブレイブハート」など他映画の予備知識がないと把握しづらい部分もある「アウトロー・キング ~スコットランドの英雄~」。

ですが、スコットランド独立戦争を忠実に描いたストーリーや、生々しいまでに当時の空気感を再現した風景・戦闘描写は、歴史映画として圧巻の完成度です。

Netflixオリジナル作品として公開されたこの映画ですが、そのスケールは劇場公開される大作と比べても全く見劣りしません

当時のイギリスのリアルな雰囲気を体験できる名作として、歴史ファンなら必見の一本と言えるでしょう。